当社の事業についてQA形式でCFOが回答します。
KOMORIの事業展開 ~オフセット印刷機~
- KOMORIグループのメーン事業はなんでしょうか。
KOMORIグループは、産業用印刷機の製造・販売を手がける企業で、主力製品は「オフセット印刷機」です。これは、パッケージやポスター、チラシ、書籍などの商業印刷に広く使われている印刷機です。


オフセット印刷機は、2020年代中盤では4,000億円程度の市場規模があり、当社グループは海外2社に続き世界3位のシェアを有し、世界全体の15-20%程度のシェアを有しています。
オフセット印刷機世界シェア

業界資料・各社決算資料より当社推計
「印刷機」と聞くと、家庭用プリンターやオフィスにあるコピー機を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかしながら、産業印刷の世界では、ポスターやパッケージなどを写真に近い高精度で、かつ短時間で大量に印刷する必要があります。 当社の印刷機は1時間に1万数千枚を印刷できるほどの生産性を誇り、家庭用機器では到底実現できない性能です。 また、産業用印刷機は非常に大型で、全長は約20メートル。通勤電車1両とほぼ同じ大きさがあり、設置にはコンビニエンスストア1店舗分(約150〜200㎡)程度のスペースが必要となります。
こちらの動画は、2025年5月に中国で開催された展示会で、当社の印刷機をセットアップしている様子を撮影したものです。動画内では、太陽が何度も昇り沈む様子が映っており、機械の組み立てにかかる時間とその規模感を感じていただけるかと思います。
- このような大型印刷機で、写真のような高精度な印刷を行うには、非常に高度な技術が求められるのではないでしょうか?
実際の印刷機では、複数の色のインキを、一色ずつ、完全に同じ位置に正確に重ねて印刷する必要があります。そのため、印刷用紙を寸分たがわず搬送する必要があり、複数のシリンダーが配置されています。このシリンダーは完全な「真円(しんえん)」でなくてはならず、当社のシリンダーはロケットや航空機で求められるレベルの精度を誇っており、これらをすべて内製で造っています。このシリンダーを高速で回転させることで、1時間に1万数千枚ものスピードで、高品質な印刷物を刷ることが可能となります。
- KOMORIグループの技術力は、外部からどのような評価を受けているのでしょうか。
当社は世界市場のニッチ分野で勝ち抜いている企業として、経済産業省の公表する「グローバルニッチトップ企業100選」に選定されています。
2020年は113社が選ばれ、前回2013年から連続受賞したのは当社を含め13社に過ぎません。当社印刷機の技術はもちろん、グローバル展開、品質管理など多角的に評価いただき、選定を受けることができました。
国内で唯一の紙幣印刷機製造会社
- 2024年に発行された新紙幣の印刷には、KOMORIの印刷機が使われていると聞きました。紙幣印刷機について教えてください。
2024年の新紙幣の改刷にあたり、銀行券用印刷機械の製造を当社が担当させていただきました。
当社は1958年に当時の大蔵省印刷局に紙幣印刷機械を納入して以来、70年近くにわたり納入実績があり、現在日本の紙幣はすべて当社の印刷機で造られています。
また、日本の紙幣は世界で見ても偽造品の流通が極めて少なく、当社の印刷技術・偽造防止技術が、紙幣をお使いになる皆さまの安心・安全に繋がっていると自負しています。
- 偽造防止のための印刷技術にはどのようなものがあるのですか?
次の動画では、当社が創業100周年を迎えた際に制作した「ハウスノート」についてご紹介しています。(ハウスノートは、実際の銀行券と同じ用紙・インキ・印刷技術を用いて制作された、特殊印刷のサンプルであり、印刷機械サプライヤーなどが販売促進や技術紹介のために作成するものです)動画では、ハウスノートに使用されている偽造防止技術をわかりやすく説明しています。
肉眼ではほとんど見えない程小さなマイクロ文字、UV光を当てると隠れた絵柄が浮かぶUVセキュリティーフィーチャー、傾けると100周年記念の「100」の文字が浮かび上がる潜像印刷、変調デジタルシリアル番号というお札1枚ごとに動きが異なる模様など、様々な偽造防止技術が取り入れられています。
このハウスノートには、20近くの偽造防止技術が取り入れられています。その中には、日本をはじめ、世界各国の紙幣に採用されている技術も含まれています。
こうした細やかな技術が、偽造品の抑制、誤用の抑制に繋がっています。
- 紙幣印刷機は日本以外の国にも納入しているのですか?
はい、当社は海外にも紙幣印刷機を納入しています。
紙幣印刷機を製造できる企業は世界でたった2社しかなく、そのうちの1社が当社です。
1996年にインド中央銀行に紙幣製造の一貫プラントを納入したのを皮切りに、特に2010年代以降で本格的に参入しています。当社の印刷機は世界39の国と地域で採用されており、現在では市場シェアをもう一社の競合企業と50%ずつ分け合う「複占」状態となっています。近年では、当社のシェアが競合を上回る年も出てきています。

- 最近ではキャッシュレス化が進み、紙幣を使わずにクレジットカードや電子決済を利用する人が増えていますが、証券印刷機事業にどのような影響がありますか?
キャッシュレス化やデジタル通貨の移行が進んでいる中でも、紙幣が完全に無くなることは現実的ではありません。デジタル決済には、電力や通信インフラの安定稼働という固有リスクが伴います。特に災害時など、紙幣の信頼性と即時性は依然として重要です。
また、新興国では、経済規模や発展段階の制約から、紙幣製造を海外の民間印刷会社に委託するケースが少なくありません。しかし、そうした国々でも「自国で紙幣を製造したい」というニーズは強く、近年では紙幣の自製化が進んでおり、紙幣の流通量はむしろ拡大傾向にあります。
さらに、紙幣は流通量にかかわらず、偽造防止技術の定期的な更新が不可欠であり、この更新需要は継続します。当社では、世界人口が増加し続けているフェーズにおいては、紙幣の流通量および証券印刷機への需要は堅調に推移するのではないかと見通しています。
紙の「デジタルシフト」への対応
- 最近では、書籍や広告のデジタルコンテンツへのシフトが進んでおりますが、このような変化に対して、どのような対応や戦略がありますか?
書籍やチラシ・ポスターといった商業印刷分野は、デジタルシフトの影響は免れない状況にあります。実際、新聞や雑誌の発行部数は、近年大きく減少しています。そこで我々は、デジタルシフトが進む中でも絶えることがない紙媒体として、パッケージ分野に注目しています。
次の図表は印刷機械そのものではなく、紙媒体・パッケージ媒体のエンドユーザー市場の地域別予測を示したものです。特に、世界的にトランザクションが爆発的に増えている通販向けなどのパッケージ分野では、高い成長が見込まれています。

- 通販は世界中で伸びていますから、その物流を支えるパッケージの伸びも相当な勢いがありそうです。
その通りなんです。加えて当社は、オフセット印刷機で競合する海外2社とは異なり、経済成長の高いアジア市場を得意としています。当社はこのエリアで2014年にシンガポール、2018年にインド、2019年に中国の販売代理店を子会社化し、商流を強化してきました。こうした商品・地域戦略が奏功し、2020年代中盤までの業績回復につながったと考えています。

デジタル印刷機とスマートファクトリー
- デジタルシフトの影響は他にありますか?
先程書籍や広告など紙媒体そのもののデジタルコンテンツシフトに言及しましたが、実は紙媒体を扱うオフセット印刷機周りでも、機械・工場設備のデジタルシフトが進んでいます。
印刷市場のデジタルシフト
3つのデジタルシフト | 課題 | 対応 |
---|---|---|
紙媒体 | 書籍発行部数の減少 | パッケージ分野強化 |
印刷機械 | オペレーターの不足 | デジタル印刷機 |
印刷工場 | 工場のDX化 | スマートファクトリー |
つまり、いわゆる印刷市場でデジタルシフトを考える場合、「紙媒体そのもののデジタルシフト」「印刷機械のデジタルシフト」「印刷工場のデジタルシフト」の3パターンがある訳です。
印刷市場におけるデジタルシフトは、単に「紙からデジタルへ」という話だけではなく、機械や工場の運用そのものにも広がっているのです。
- 「印刷機械」のデジタルシフトとはどのようなものですか?
オフセット印刷機は、写真に近い高品質な印刷物を1時間に1万数千枚という高速で生産できるため、非常に高い生産性を誇ります。しかし、その機械操作には熟練した経験、技術を持つオペレーターを必要とします。これは製造業全体の課題でもあるのですが、現在熟練工の高齢化が進み、人手不足が深刻化しています。
こうした背景の中、印刷業界では「デジタル印刷機」への置換が進んでいます。これは、オフィスでPC画面のファイルをボタン一つで印刷するような感覚で操作できるもので、技術者不足への対応策として注目されています。
特に高齢化が進む先進国では、熟練工の雇用が難しくなっており、デジタル印刷機への移行が進んでいます。
生産性の面では、オフセット印刷機が1時間に1万数千枚を印刷できるのに対し、当社の世界最高速クラスのデジタル印刷機であっても1時間に6,500枚と、一見するとデジタル印刷機は劣っているように見えます。
しかし、印刷業界では多品種・小ロット化が進んでおり、仕事の切り替えの速さや柔軟性といった点では、デジタル印刷機が優位性を持っています。
当社の主力顧客は、依然として高生産性を求めるオフセット印刷機の大手企業ですが、「印刷機械のデジタルシフト」は見過ごせないスピードで進行しており、当社としてもこの変化に対応すべく、デジタル印刷分野の技術開発と製品展開を強化しています。
- 「印刷工場」のデジタルシフトとはどのようなものですか?
製造業全体の流れと同様に、印刷機を扱う工場全体でも、印刷機の制御・管理部分のDX化が進んでいます。

オフセット印刷では、印刷工程以外にも印刷に使う版の調整などを行う「前工程(プリプレス)」、印刷後の断裁・製本などを行う「後工程(ポストプレス)」があります。
当社では前工程や後工程を行う10社以上の取引先企業とアライアンスを組み、お互いの情報の集約し、「見える化」「自動化」「整流化」を進めています。この連携により、工場の稼働状況や生産管理がリアルタイムで把握できるようになり、生産ラインのDX化、工場のスマートファクトリー化が加速します。
また、当社のドイツ子会社MBOでは、印刷後の紙束を自動で正確に積み上げる協働ロボット『MBO Cobo-Stack』を開発し、後工程の省人化・合理化に貢献しています。
半導体関連業界へ向け「プリンテッド・エレクトロニクス(PE)」事業を拡大
- ここまでで、「証券印刷事業」「パッケージ事業」「デジタル印刷機」を伸ばすことが、KOMORIグループの今後の方向性であることが分かりました。その他に注力される分野などはないのですか?
我々は印刷機の提供先を印刷市場に限らず、エンドユーザーを更に広げる取り組みをしています。

海外A社、海外B社:直近4四半期から算出
医薬業、食料品業、精密機械業、電気機器業:東証プライム平均
データは2025年3月時点、時価は2025年5月第2週
この図表は当社と現在のメーン・マーケットである印刷業のROEとPBRの関係をプロットしたものです。当社と競合する海外2社は収益性の所でご苦労されていますし、国内でエンドユーザーとなる印刷業のROE・PBRも決して高く評価されているとは言えません。
当社は、今は印刷業に近い所にありますが、中期的には事業ポートフォリオの転換を図り、エンドユーザーをパッケージ分野の対象先である食品・医薬品業界や半導体関連業界にシフトさせていかなくてはなりません。
- 半導体関連業界ですか。今まで出てこなかった新しいワードですが、「印刷機を半導体業界に販売する」ということなのでしょうか?
はい、半導体関連市場向けの印刷機を製造販売しています。
これは「プリンテッド・エレクトロニクス(PE)」と呼ばれる分野で、印刷技術を応用して基板や電子部品を製造する技術です。
当社では、子会社のセリア・コーポレーション(SERIA)がこの分野を展開しており、主な顧客はパッケージ基板や電子部品を製造する企業です。そのため、印刷会社が主要顧客であるKOMORIとは、顧客層が大きく異なります。
SERIAで製造する印刷機の一例として、半導体のチップをパッケージ基板に実装する際、基板を平坦になだらかにしたり、高密度に配線を施すために、樹脂で穴埋めを行う工程があります。その工程を真空の状態で気泡を入れることなく封入する「真空印刷機」が活躍しています。この製品は技術面で評価されており、今後はスマートフォンの高機能化や自動車の電子化、さらに近年急速に普及しているVRやウェアラブル端末など、高密度パッケージ基板の需要が拡大する分野でのさらなる成長が期待されています。


- 半導体は新しい分野だと思うのですが、主に商業印刷で100年の業歴を重ねてきたKOMORIが、この分野でどのように事業を拡大させるのでしょうか。
エンドユーザーを変えるということは、これまで我々が従事したことがないマーケットへの挑戦であり、外部の力も取り入れるべきだと考えています。
その為に、当社は第7次中期経営計画で従来の維持更新型の設備投資50億円とは別に、新規市場・事業向けに150億円の枠を設け、計200億円の戦略投資枠を確保しました。

実際に2025年3月期には、半導体ではありませんが、同じく新市場の獲得を目的に、パッケージ分野で計30億円の買収を進めました。
この買収により、これまで当社がアプローチできなかった北米の大手パッケージングメーカーとの商談が可能となり、実際に販売も進んでいます。すでにシナジーが生まれていることを実感しています。

半導体分野につきましても、外部の力を借りながら、より成長市場に根差した事業ポートフォリオとなるよう変革を進めていきたいと考えています。
第7次中期経営計画では、オフセット印刷機・証券印刷機などを基盤事業、印刷市場の中で伸びが期待されているデジタル印刷機・PE事業などを成長事業として、それぞれに解決すべき課題と各KPIを定め、経営改革を進めています。
詳しい内容については、中期経営計画をご覧ください。